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【盗まれたミコ】 − 銭形平助捕物控 − 

● 連載第三回

「ぽろり様はお忙しいので、ご予約かどなたかのご紹介でないとお会いできません」

タヌキ明神の社務所受付のくせに、妙にキツネ目の女が、表情ひとつ変えずにこう言った。

「そこをなんとか。お上の御用で来てるんだからさ」
「お上でもおかまでも、だめなものはだめです。
それともなんですか? 町方が寺社奉行のご支配なさる当社を無理にでもと?」
「い・いや。あっしゃあそこまで申しちゃあおりやせん。ちょいとぽろり様にお目にかかればそれでいいんで」
「ぽろり様はいい男かお金持ちでないとお会いになりません。とてもあなた方のような・・・」

キツネ目は細い目をさらに細めてバカにしたように二人を見て言った。
というわけで、二人は簡単に追い払われてしまった。

「なんでえ、バカにしやがって。くそう。このまま引き下がっちゃいられねえ」
「そうですとも親分。こうなりゃ忍び込んででも」
「うむ、そうだな。ここは暗くなるまで待とう」

二人はその晩暗くなってから、豊田明神に出直して来た。
社殿には思いのほか楽に侵入できた。廊下には人気(ひとけ)もないが明かりもない。
仕方がないのでかねて用意の龕灯(がんどう。昔の懐中電灯)に灯を点した。その灯りを頼りに、そろそろと廊下を進んでいくと、なにやらカタカタと音がする。
その音のする部屋の戸の隙間から明かりが漏れていた。

「おい。何の音だ?」
「あっしにも良くわかりやせん」
「じゃ、まあ覗いてみよう・・・」

二人が隙間からおそるおそる覗いて見ると、白装束に緋の袴を着けた女が、文机に向かってなにやら手を動かしている。それはどうやらミコさんの家で見た『電脳机』とかの仲間らしい。
女が算盤みたいなものに向かって手を動かすたびに、それはカタカタと音をたてるのであった。

「どうやら『電鍵』とかいう物を打ってるみてえだな」
「なんですかい? その『電鍵』てな?」
「うむ。伴天連のカラクリで、それでもって絵や字を書けるということを聞いたことがある」
「そう言やあ『電脳机』使いは鼠をわしづかみにして使うとか」
「うむ。鼠を手なずけるたあ、てえしたもんだ」

二人は忍び込んでいることも忘れて、だんだん声高になっていた。

「そこにいるのは誰ぢゃっ!?」

厳しい誰何(すいか)の声とともに女がこちらを見た。
その顔には白い薄絹が掛けてあった。

「ひっ!」

と首を竦めたが、もう遅かった。
手に手に棒や刀を提げた屈強の男達が5−6人現われ、二人は手も無く縛り上げられて廊下に引き据えられてしまった。
騒ぎが静まるのを待っていたかのように部屋の戸が開き、中から白装束の女が現れた。顔には薄絹を掛けたままである。

「その方どもは何者ぢゃ?」

女がそう言うと男たちの中の一人が言った。

「ぽろり様。かような下賎の者達に、直接お言葉をおかけになるなど・・」
「構わぬ。わらわはちょうど退屈しておったところぢゃ。
のうぽろりファン3号。この者どもの詮議、いまここでいたそうではないか」

女はぽろり様であったようだ。ぽろりファン3号と呼ばれた男はそこにかしこまって答えた。

「ははーっ。仰せのとおりに」

(【盗まれたミコ】・・・つづく)

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