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【ミコからの挑戦状の巻】 その5……藁菱作

「せっかく参られたのぢゃ。さやうに急ぎなさらんでもよからう。
そもそもミコどのは何をしに当山に参られたのであったかの?」
先ほどから妙に落ち着きを無くした様子のミコであったが、
藁菱にはどうも浄玻璃の鏡の話をしてからのように思えた。
「しろくまどのもかうして三人揃ったといふのに、何故にさう追ひ返すやうな物言いをなさるのぢゃ?」
「追い返すなどとは滅相もない。私はただ藁菱どのがお疲れであろうと・・」
「いやいや、さやうなお気遣ひはご無用になされよ。拙僧はかう見えても気だけは若いでな。
ささ、遠慮なさらんといんぎらーっとしまっしま。
(加賀弁でごゆるりと、の意。ももじさんへのサービス)
坊(僧侶の住い)に案内(あない)いたそうほどに」
そうまで言われて、さすがのミコも断る術(すべ)を失ってしまった。
「そ・それではもう少しだけお邪魔しようかしら・・。ほほほ・・・」


「ここが儂(わし)の住ひぢゃ。なんのおもてなしもできぬが、ごゆるりとなされよ」
そう言って案内されたのは、広さだけは十二畳くらいはあるが、部屋の真ん中に
文机が置いてあり、隅に簡単な茶道具を入れた櫃があるだけの部屋である。
「なんてすっきりした部屋なんでしょう・・・!」
思わずミコがそう口走ってしまうほどの簡潔さであった。
「いやいやミコさん、そうじゃないんですよ。このおっさん・・じゃなくて坊さん、
押し入れにとんでもないものを隠していなさるんですよ」
「とんでもないもの!?」
「そうなんですよ。(^^) なんだかわかります?」
「もしかして春画本とか・・・」
「ぶゎかもの! さやうな不浄のものをこの儂が・・・」
「藁菱どの、血圧血圧・・。ミコさんも言うに事欠いて、なんてこと言うんですか」
「だってえ・・・」
「たわけたことを申すでない。いまどきさういうものは全てCD−ROMで・・」
「え?」
「い・いや・・なんでもない。ただの独り言ぢゃ。(^^;;」
「じゃあ一体、なにが隠してあるんです?」
「ミコさん、押し入れを開けてご覧なさい。構いませんよね?藁菱どの」
「うむ。構わぬとも」
押し入れを開けてみてミコはびっくりした。
そこには最新型の電脳机一式が備え付けてあったのである。
「うわーー すごい・・・」
「ふぉっふぉっふぉ。儂には良く分からぬが筆手編・四とかを搭載した魔神ぢゃそうな」
(作註:ここは完全にフィクションの世界であります。とほほ・・・)
「すごいなあ・・・あたしもこういうの欲しいなあ」
「ミコさんの磨苦労だったら、ここまでの魔神でなくとも十分ですよ」
「まあ、しろくまさんたら、ひどーーい! でも当たってるわね、くやしいけど」
「まあ、魔神の方も使い方によっておいおい等級向上(グレードアップ)していけばいいんですよ」
「そうね。じゃ、お茶でも煎れるわね。おいしいクッキーやカステラもあることだし。(^^)」
この時、かすかに藁菱の顔が曇ったことは誰も気付かなかった。


「さあお茶が入ったわよ。で、これがクッキーでこっちがカステラ・・と」
「なんと!? これがクッキーですか??」
「そうよしろくまさん。なんだと思ったの?」
「ははは・・・い・いえ・・おいしそうなクッキーですね。(^^;;」
「しろくまどの。なんなら浄玻璃の鏡に写してしんぜやうか?」
「い・いや・・和尚。それだけはご勘弁を・・はは・・。(^^;;;;」
白熊の発汗量はますます留まるところを知らぬようである。
「浄玻璃の鏡って、なんでも分かってしまうの?」
「さやう。嘘をついておるかどうかもな」
「じゃあ、しろくまさんの『おいしそうな』は嘘だってことなの」
「あ、いや・・さやうなわけでは・・・はは・・(^^;;」
今度は藁菱が冷や汗をかく番であった。
しかしミコの目は笑ってはいなかった。

「儂はクッキーよりカステラを食してみやうかの」
藁菱はクッキーには懲りている。
「どうぞどうぞ」
ミコはこともあろうに、厚めに切ったカステラを差し出した。
(くく・・・これも修行と思へば良いのぢゃ・・・)
藁菱は覚悟を決めて口にほうり込んだ。

・・・・・・

どれほどの時間が経過したことであろう。
藁菱には宇宙悠久のときを感じたことであろう。

・・・ごっくん・・・

「ぷはーー!!」

「どうですか、もう一切れ」
「そ・それだけはいかん!」
「まあどうしてですの?」
「儂の父親の遺言でな。『カステラは一度に一切れしか食べてはいかん』とな」
「変な遺言ですね。じゃあしろくまさん、お一ついかが?」
白熊は先程ほうばったクッキーをまだ嚥下できずにいるうえ、隣りで藁菱が苦悶に喘ぐ
姿を見ているから、慌てててを左右に振りながら言った。
「ふぉ・ふぉんへふぉふぁい・・ふぉうひゅうふんへふ」
「何を言ってるのかしらねえ?」
「多分『と・とんでもない、もう十分です』であらうの」
お茶を啜ってようやく人心地ついた藁菱が通訳を買って出た。
「まあ、どうしてなの? おいしくないの?」
その時ようやく飲み込み終えた白熊が汗を拭き拭き言った。
「と・とんでもない。こんなおいしいものを食べると癖になってしまうからですよ」
「しろくまどのはお口がお上手ぢゃのう。ふぉっふぉっふぉ」
「藁菱どの、これはマジに本当の本気ですって」
「良い良い。ふぉっふぉっふぉ」


一見、和やかな雰囲気ではあったが、藁菱はこう考えていた。

・・・ふうむ。どうもおかしい。昔、ミコどののクッキーを食したときには、これほど殺人的なものではなかった。
せいぜいお茶の引き立て役くらいのひどさに留まっていた。
・・・先ほどの浄玻璃の鏡の話への反応と言い、もしやここにいるミコは、豊田の街を騒がせているという
《百化けのミコ》ではあるまいか?

浄玻璃の鏡はご本尊の左手に安置してある。
そこまでなんとかミコを誘い出す手はないものか・・・。
(おう、さうぢゃ!)
簡単に思案がついた。

「ミコどの、ご自分の作られた菓子ではそなたもおもしろうはなからう。
本堂に供え物の菓子があらうほどに、取りに参りませうか」
「は〜い! p(^o^)q」
一発である。相手が本物のミコであれ百化けであれ、この手が効かぬ筈はない。
藁菱は本堂の左手に回るべく、回廊を先導した。
「ささ、ここが本堂ぢゃ」
そういうと、浄玻璃の鏡の前を通る頃合いを見計らって鏡に掛けてある布を取り払った。

「えーい!」

先ほどのクッキーといい藁菱の態度といい、感ずるところのあった白熊がすかさず
ミコの体を鏡に向けた。

「ぎぃえええぇぇぇーーーーっ!!」

そこに写った姿は・・・・

Sub MikoShoutai()
Dim msg As String, res As string
msg = "あなたは何が写っていたと思いますか?" & Chr(13)
msg = msg & "ミコそのもの、と思う人は <はい> を" & Chr(13)
msg = msg & "化け猫だと思う人は <いいえ> を" & Chr(13)
msg = msg & "ほかのものだと思う人は <キャンセル> を押してください。"
res = MsgBox (msg, 35, "?")
If res = vbYes Then
MsgBox ("あなたはなにがあってもミコさんを信じる人です。")
ElseIf res = vbNo Then
MsgBox ("あなたはミコさんが変わらないでほしいと願っている人です。")
Else
MsgBox ("あなたは「ミコさんて誰?」という人です。")
End If
End sub

正体を暴かれたミコは妖艶な笑みを浮かべて藁菱に近づいてきた。
あまつさえ美しいミコに、いま何物か得体の知れぬものが憑依しては、それは恐ろしいほどの美しさであった。
藁菱は身動きができなかった。
白熊も固唾を呑んで目を見張るばかりである。

「藁菱さまぁ〜〜」

ミコは目を細めると、藁菱の耳元で囁いた。

「座楽棄(ざらき)・・・」

(完)

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